小1ママのお勉強会(1)
はじめに
ワーママは立場もさまざま、人間関係も教育的なバックグラウンドも異なっています。最近は外国人の働くママが公立小学校でも一緒にPTAに参加していることが普通になってきています。学校に行くと、非常に親子双方カラフル、といえる状況です。
ママも、働き方が多様になっており、会社では産休・時短だけでなく、フレックス・週〇回勤務・リモートなど様々な制度・取り組みがあります。働き方改革の中でも、子育て世代をサポートし、人手不足を予防する動きが盛んになっており、「働く人はこういう生活モードである」と一概に言えない部分もあるくらいです。会社は働くママのインクルージョン=包摂に努力はしており、変わった、といえるでしょう。
それでは、学校現場でのインクルージョンはどうなっているでしょうか。特に発達障害をめぐる問題は、学校の「インクルーシブ教育」の問題として、盛んに議論されています。
このように、多様性に満ちた小学校で、どのワーママのお子さんも過ごしやすく、そして、ワーママの負担が過剰にならずに過ごすにはどうしたら良いか、ヒントにしていただくことを目的に、発達障害のお勉強会特集を2回にわたってお送りします。
小1の壁 発達障害も壁の一つです。
小1の壁の中で、発達障害は大きいテーマの一つです。各種のアンケートの中でも、発達障害のお子さんの子育てに悩んでいるお母さんが多いと同時に、発達障害の認知率も、例えば横浜市の場合10%ほどと、10人に一人が何らかの支援を必要としている児童であることが知られています。
また、グレーゾーンといわれるように、はっきりとは診断がついていないが、集団生活や学習についていきにくいお子さんについても含めると、もっとこれら発達関連の問題に悩んでいる方は多いものと思われます。
そこで、まず、何を発達障害と呼ぶのか、ご説明したいと思います。
発達障害とは何? 脳の機能の障害です。
発達障害とは何? 脳の機能の障害です
発達障害は全体として、次のように分類されます。
ASD 自閉症スペクトラム
ADHD 注意欠陥症候群
PDD 広範性発達障害
LD 学習障害
これらは、すべて脳機能の障害といえ、脳の前頭前野・線条体・扁桃体・側頭葉の機能に問題があるとされています。どの障害で脳のどの部位が障害されているといえるのか、何が原因かは、詳しく解明されていない点も多くあります。
各発達障害に具体的に表れる特性は、おおむね次のように整理できます。
ASD
自閉症スペクトラム |
言葉のコミュニケーションが苦手(行間の意味が分からず、文字通りにしか言葉を受け取れない)・人と関わるのが苦手(目を合わせない)・こだわりや興味に目立った偏りがある |
ADHD
注意欠陥障害 |
不注意(忘れ物・落し物・うっかり)・多動性(立ち歩き・貧乏ゆすり)・衝動性(順番を待てない・友達に手を出す、感情のコントロールがしにくいなど) |
PDD
広範性発達障害 |
ASDに同じところが非常に多い |
LD
学習障害 |
読み書きの障害(程度の問題があるが、文字の読み書きができないか非常に困難)・計算障害(一定の計算ができない、または計算そのもの全くできない)など |
発達障害は、外目から見えない特性であるため、周囲は、その行動に驚き、戸惑うことも多く、例えば、自閉症スペクトラムのあるお子さんが、給食の配膳の時に「そのスープを適当によそって」と言われて「適当」という程度がどの程度か全くわからず、苦しんでいるなどということは外目からは全くわかりません。
あるいは、ADHDのお子さんが、忘れ物を繰り返しするのですが、「どのように忘れ物に対処するか」を含めて、どうしたらいいのかを一回一回丁寧に一緒にサポートしないと難しいことなども、外目から見ると全くわかりません。
さらに、外から見えないことに加え、発達障害の理解を難しくしている点があるとすると、1.各障害の特性は重なるところがあり、診断名にぴっちり対応している特性があるわけではないこと 2.疾患なのか、障害なのか、発達障害の名前そのものが誤解を生みやすいのです。
←左の図のように、各発達障害は重なり合うこともあります。ここが発達障害をわかりにくくしている原因の一つです。
医学上、精神疾患の一部といえる発達障害があるというケースでは、当事者は障害者ではないケースも多いですし、また、精神疾患と言っても非常に軽いもの、といえるケース、かなり困り度が高く、重いといえるケースなど、さまざまなものがあります。
医学的に疾患として診断されている発達障害には、投薬療法・ペアレントトレーニング、応用行動分析学に基づく療育的アプローチにより、困りごとがよくなっていくケースもありますので、これらを「治療」と呼んでいます。
なお、困りごとがそれほど大きくないが、ASD的傾向・ADHD的な傾向のあるお子さんを「グレーゾーン」と呼ぶことがあります。これらのお子さんは、診断がついていないケース、診断はついていても治療するほどでもないケースどちらもあるようです。
診断の方法は、知能検査・各種心理検査を用いて行います。お子さんには2-3時間のテストや、行動観察があり、つれていく親御さんもたいてい2-3日がかりの大仕事になってしまうようです。
しかし、こうして診断を受けておくと、支援のポイントや、投薬で困りごとが軽くできるかどうかがわかります。年齢が小さいうちに治療・療育を受けることにより、次にご説明します、二次障害の防止効果は大きいとされているので、気になる点があれば、早めに診断を受けることが必要です。
我慢ができなくて、お友達をたたいてしまった、こだわりがひどくて、気に入らないと癇癪を起してしまう、などの困りごとがあると、親子ともに小学校生活はクオリティオブライフが落ちてしまう出来事がいっぱいになります。また周囲も、他の子の安全にもかかわると心配し、たたかれた子供の親御さんは憤慨します。
しかし、投薬・療育・トレーニング・環境調整で、困りごとが軽くなると子供は落ちついていきます。よくなれば自尊感情をよく保てるよい循環が生まれます。大人になって困難はあっても、今度は自分をうまく操縦できるようになっていきます。これが早く診断を受け、支援を受ける意味です。
発達障害と二次障害 二次障害とは?
発達障害のお子さんは、上にも説明した通り、学校生活に困難を感じることが多いのです。あるお子さんは「バカ」と言われ、あるお子さんは「なんでそんなにだらしがないの」と言われ、自己評価が非常に低くなってしまっています。
これらのお子さんが、もしもこのまま支援なく、温かい周囲からの理解なく放っておかれると、ストレスにより「二次障害」を発症する可能性が高くなってしまいます。
二次障害には、うつ病・双極性障害・強迫性障害など、「自分を周囲に適合させようとしてできなかったことに対する失望・怒り」をトリガーにして発症しやすいといわれる一連の精神疾患が含まれます。
これは一度や二度のことではなく、長い年月をかけて叱責や嘲笑を受けた結果、ある日心がほころぶようにして発症するものです。そのため、発達障害のお子さんに必要なのは、叱責ではなく支援である、と言われています。
また、発達障害は死に至ることはないが、二次障害は死に至る重病になることもある、ということは理解しておいたほうが良いと思います。
発達障害に関するママの勉強会、第1回はここまで。次回は学校環境や支援制度、発達障害の当事者ママのお困りごとについて、さらに知識を深めることとしたいと思います。