2021年9月11日、GEWEL にとって10回目となるオープンフォーラムが開催しました。100名を超える多くの参加者の皆様にお越しいただき、zoom を用いたオンラインでのセッションをお届けしました。
6名の特別ゲストからD&Iへの取り組みについてうかがうことができました。
さらに本イベントではUDトークを活用。UDトークとは、
・「音声認識+音声合成」機能を使って視聴覚障害間コミュニケーション
・「多言語音声認識&翻訳」機能を使って多言語コミュニケーション
・「漢字かな変換や手書き」機能を使って世代間コミュニケーション
といったコミュニケーションの「UD=ユニバーサルデザイン」を支援するためのアプリです。(参照元:https://udtalk.jp)こちらのサービスを用いて、スピーカーの声を文字でもお伝えしました。
またゲストの皆さまには、当日の髪型や服装など見た目についても言及いただくことに。視覚・聴覚特性のある方でも楽しめるようなイベントづくりを心がけました。
セッションではゲストの皆様にスライドをご用意いただき、資料画像と説明の音声とで分かりやすい発表の場になりました。多様性への取り組みがどのように行われているのか、多くの学びを得られるイベントとなりました。
・特別ゲスト①
隅田浩子様(ビジョンでビジョンを拓く「ゆる眼セラピー研究所」代表)
視能訓練士・心理指導員、そして「ゆる眼セラピー研究所」の代表としてご活躍の隅田様。本イベントでは、「明日から使える読みやすい資料の作り方」についてお話しいただきました。
日本における視能訓練士の実態や業務内容にも触れ、30年以上にわたり視力・視野検査そしてルーペ・遮光眼鏡の補助具選定などに携わってこられた「眼の検査訓練のプロ」としての貴重なお話に。
セッションでは、「色調」や「フォント」による見え方の違いを実際に体験。視覚特性のある方の見る世界を参加者と共有しました。その中で隅田様が述べられた資料作りのポイントは、
・色調
カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットを参考にする
色は白・黒+2〜3色
・文字
フォントは均等幅で表示するもの(ゴシック体など)
文字の種類は1〜2種類
文字サイズは2〜3種類
また資料を作る際はこれらに配慮するだけでなく、「網掛け」などで図形を変化させることも有効であると理解できました。
・特別ゲスト②
伊藤芳浩様(NPO法人インフォメーションギャップバスター代表)
多様な人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり支え合うことで実現する「コミュニケーションバリアフリー」。伊藤様はNPO法人インフォメーションギャップバスター代表として、この理念を推進しています。
本イベントでは伊藤様に「コロナ禍のコミュニケーションのベストプラクティス」と題し、コミュニケーション・情報のバリア(障壁)やコロナ禍の課題へのブレークスルーについてお伝えいただきました。
生まれつきほとんど聞こえない「ろう者」である伊藤様は、セッションにて手話にて話され、その手話を手話通訳者が音声へ通訳する形で進められました。
【コミュニケーションバリア】
・社会と個人両方に存在する
・立場や環境によって誰にでも起こりうる問題である
【コロナ対策としてのマスク】
・コミュニケーションの妨げになっている
・透明マスクや音声認識ツールの活用を考える
・音声以外にも多様な伝達手段を考える
本セッションではコロナで増加したオンラインでの望ましい情報共有のあり方についても考える良い機会に。コミュニケーションの課題を理解すると同時に、あらゆる問題を「自分事として捉える」ことの重要性を学びました。
・特別ゲスト③
松田紗季様(菅公学生服株式会社)
本イベントでは菅公学生服株式会社より松田紗季様がご登壇。「一人一人を大切にした制服づくり」についてお話しいただきました。
菅公学生服といえば、学校制服・学校体育衣料業界の老舗メーカー。そんな菅公学生服の事業実態や、調査研究への取り組みについて共有いただきました。
学生服が「着用者・購入者・決定者」が異なる特殊な衣料であることを改めて実感するセッションでした。
セクシャルマイノリティ当事者の声をもとに、「自分らしく」「それぞれの性のあり方を尊重できる制服」を掲げる菅公学生服。ジェンダーレスな世界へ変化が見られる現代を通過点に、未来のジェンダーフリーを目指す理念を知ることができました。
取り組みを推進する制服は、
・性差の少ないブレザー
・前合わせを自由に選択
・ネクタイ、リボン、ノータイから選べる
・男女どちらでも違和のない形
といったように、自分らしくあるための選択肢が非常に豊富。菅公学生服の調査研究が形となっていることを実感しました。
他にもファスナー・マジックテープで着脱しやすい制服など、すべてのこどもたちを包み込む「インクルーシブユニフォーム」への取り組みを知る貴重な機会となりました。
・特別ゲスト④
冨岡千花子様(TOTO(株) 販売統括本部 UD/プレゼンテーション推進部 主幹)
衛生陶器で約6割のシェアを誇り、温水洗浄便座「ウォシュレット」で有名なTOTO株式会社より冨岡千花子様がご登壇。今回のセッションでは「一人でも多くの人が使いやすいパブリックトイレ」についてお話しいただきました。
TOTO株式会社の事業概要やものづくりへの想い、50年以上にわたるパブリックトイレへの検証・調査・研究について解説いただき、その歴史の長さ、そして世界的にも評価の高い日本のトイレについて実感の湧くセッションとなりました。
建物の用途や利用者によって必要な配慮が異なるパブリックトイレ。だからこそ、多様な人々・行為・ニーズへ配慮した「一人でも多くの人が使いやすいパブリックトイレ」への理解が重要であることを共有いただきました。
★多様なニーズとは?
・車いす
移動や動作がスムーズにできるスペース
・オストメイト
ラクな姿勢で使用できる汚物流しの設置
・視覚障がい
操作系設備の統一、コントラストを付けた色使い
・性的マイノリティ
利用することが不自然にならない、男女共用個室型
・発達障がい
同伴者と入れる広めの男女共用トイレ
特性によって異なるニーズを汲み取りながら、多様性の実現に向けて「多様なトイレを選べる環境」づくりが必要であることを学ぶ、貴重な機会となりました。
・特別ゲスト⑤
畠中直美様(一般社団法人チャレンジドLIFE 代表)
我が子の発達障害をきっかけにチャレンジドLIFE を設立された畠中様。本イベントでは「社会における発達障がいへの認知や理解に関する全国調査」と題してセッションを行っていただきました。
自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠陥多動性障がい(ADHD)・学習障がい(LD)/限局性学習症(SLD)の3つに大別する発達障がい。まずはそれぞれの特性についてお話しいただきました。
・ASD
コミュニケーションの障がい
興味、行動への強いこだわり
・ADHD
注意欠陥(片付けが苦手、同じミスをしてしまうなど)
多動性(落ち着きがない、感情的・衝動的な言動など)
・LD/SDL
聞く、話す、読む、書く、計算・推論するなど特定の能力に困難
協調運動が苦手
手先が極端に不器用
実際にどんな特性を持つ人々なのか、改めて知る機会となりました。また、発達障がいの認知や理解が当事者・家族にとって「十分ではない」実態が明らかに。特に性質が障害の有無に関係なく生じるものが多く、ネガティブな反応を受けることもあるといいます。
「発達障がいの目線でみんなの生きやすさを考える」ことの重要さを感じるセッションとなりました。
・特別ゲスト⑥
西原三葉様(カウンセリングルームAUBE 代表)
「片付けられないADHD・カサンドラ」で悩む方の生活をサポートする「カウンセリングルームAUBE」代表の西原三葉様がご登壇。本イベントでは「生きやすくなるお片付け」についてお話しいただきました。
西原様は「片づけられない」に長年悩んだADHD当事者ながら、認知行動療法を受けて克服。現在は「片づけが苦手な方のための整理収納コンサルタント」「ADHDタイプの方のサポーター」など、整理収納アドバイザーとしてご活躍です。
片付けられないことによる「生きづらさ」を感じる人は多いといい、また西原様へ相談する方の95%は女性であるといいます。そんな生きづらさを解消するお片付けについて、今回のセッションではお話いただきました。
・大切なのは「仲間分け」
多いものをざっくり分類。山にしてまとめ、捨ててもいいものはゴミ袋へ
物の山をさらに用途などで細分化。同じようなものが複数あれば減らす
使用頻度によって「使うもの・使わないもの」に分類
取り出しやすく使いやすいものを奥行きの手前に、そして高さは中間に
片付けた位置は維持し、ラベリングも効果的
といった片付け術を参加者へ伝授いただきました。その上で西原様からは、片付けられない自分を「責めない」ことが大切であるとお教えいただきました。
・ゲスト同士のクロストーク
特別ゲストによる個別のセッションが終了した後、ゲスト同士によるクロストークが行われました。異なる分野の専門家同士が知見を共有し合う場となり、参加者にとっても学びの多いトークセッションに。(モデレーター:稲葉 哲治(GEWEL 理事)
ゲストの皆様からは、
・チャットへ多数のコメントが寄せられ様々な意見を共有することで、セッションがより良いものになった
・他のゲストの方のセッションが、自身の活動にとって良い参考になった
・多様性への配慮は、問題があるなしに関わらず常に行っておきたい
・ギャップを埋めていく作業が大切
・知らないことを知ることが認知につながる
・問題を自分事にする、文字化するなど新たな気づきがあった
・セッション中の問題がチャットに投稿され、すぐに解決された。困ったことがすぐに言え、問題を共有できる環境が良かった。
といったお声を頂戴しました。
☆フォーラムを終えて☆
多くの分野で多様性に配慮した取り組みがなされていることがわかる、非常に有意義なイベントとなりました。
そしてダイバーシティ&インクルージョへ取り組む分野が違っていても、行動の先に得られた視点や知見に「共通点がある」ということが、クロストークによっても見えてきました。
また対策として完全なものはなく、個人差に配慮し、マイノリティの意見の中でもさらにマイノリティが発生していることを忘れてはならない、ということを実感できるセッションでした。
柔軟に対応できることが可能な環境の整備に加え、モノゴトの選択肢を増やし、どれを選んでも尊重する社会が求められているようです。
そして、ダイバーシティ&インクルージョンを考えていく上では、
・自分自身の違いを認める
・他人の違いを尊重するために行動する
・興味関心のない人にどれだけ伝えられるか
といった観点も重要です。「包摂心・受容心」をもち、互いに寛容になって、一歩踏み出そうという人を受け容れようという想いが多様性の実現には必要でしょう。
2021年のオープンフォーラムも素晴らしいイベントとなりました。ご登壇いただいたゲストの皆様、ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。